僕は、エリザベスの裸の胸を見つめていた。
「東京の町って、実体がないわね」
エリザベスは白い肌をしている。声は艶っぽくて、頬が少し紅潮している。
「いろいろな情報に溢れているけど、脈絡がなさすぎるわ」
確かにエリザベスの言うとおりだと思った。TVをつければお笑いから料理番組、スポーツ、ニュースまでなんでもある。ネットを開けば友人のブログやらSNSやらツイッターやら、いろいろある。でもそれらになんの繋がりもない。
「だから?」と、僕は全裸のエリザベスに訊いてみた。「それがどうしたの?」
「だから? あなたはただ情報に翻弄されているだけ・・」
そうかもしれない。たった今だって、こうしてエリザベスの裸の胸を見つめている。そして、こんなことを考えていた。「彼女の身体は美しい。胸だって、なんて綺麗な形をしているんだろう。でも、僕は彼女のその胸に、何の意味も読みとれない。なぜなのだろう。僕は現実の実体から意味を読みとることができなくなってしまったようだ。それよりも、実体のない情報を欲しがっている。それは例えば、エリザベスの秘めたる欲望というコード。それが読みとれなければ、僕はエリザベスの身体に触れることはできない。いや、それを読みとれなければ、彼女に触れたとしても無意味だ。
「エリザベス。きみは綺麗だ。きみのその裸の身体は奇跡のように美しい。でも、きみは僕にとって、この東京という町ほどにも実体がない。ただの情報の集積に過ぎないんだ。それもなんの脈絡もない情報の集積。あなたのブルーに輝く瞳。金色のネックレスを連ねたような髪。そして釣鐘のような胸。軟らかい果物のような唇。それら全ては脈絡もなく、今、僕の目の前にある。でも、目には見えないあなたの欲望。それさえあれば、全てが繋がる。でも、あなたは僕を欲しているのかどうか、僕には分からない。あなたの中に”欲望”という実体がない限り、あなたの美しい部品の全ては、僕にとってはバラバラの存在であって、この東京という町に暮らしているみたいに無意味なんだ」
エリザベスは僕がそう言うのを聞くと、がっかりしたような顔をして急に立ち上がった。そして、おもむろに、僕の後ろに回った。
「これであたしが見えなくなった。そうでしょ? あたしという実体は不在になったの。さあ、これから、あなたにとって必要なあたしの”情報”を選び出してみて」
ぼくは戸惑った。
「どうやって?」
「あなたは私の欲望に火を点けられるかどうか、試してみるの」
「どうやって?」
「やり方は簡単。見えないあたしに言葉を使って言うの。あたしのどこが必要かを。そして、それがなぜ必要なのかを言うの」
「え? 言葉できみのどこが、なぜ必要なのかを言うの?」
「そうよ。簡単でしょ?」
「よくわからないよ。でもやってみるよ」
僕はベッドの上に胡坐をかいて座り、エリザベスの言ったルールにしたがって、ゲームを始めてみることにした。
「エリザベス。きみは背が高い。ぼくはその背の高いきみの裸の姿を想像している。真っ直ぐに立って僕の目の前にいる。まるで彫刻のように美しい。いや、彫刻以上だ。なぜならきみの髪は金髪で瞳はブルー。唇は赤い。そして、肌の色はピンクがかった白。彫刻のように単色ではなく、きれいな色で色づいているから、きみは彫刻以上に美しい。そして、その立体的造形だって彫刻では表現できない。なぜなら、きみは動く。波のようにうねり、豊かな胸をふるわせ、表情も刻々と変化する。なぜなら、きみはただの物質ではなく、きみには感覚があり、感情があるからだ。そして、その感情は、肉体の快楽の感覚を超えて、僕を欲する。それがあなたの意志だ。僕を欲しなければ、あなたの身体はバラバラで、エクスタシーに到達することはできない。だから、きみは決心しなければならない。欲望それ自体に、自分の身体をドライブさせることを許さなければならない」
「いいわ。OK。合格にしておいてあげる。あなたはこの東京にいて、情報に振り回されないで、自分の”欲望”によって行動するの。そうしたら、あたしも、あなたを欲してあげるわ」
エリザベスは僕の後ろから、僕の背中に抱きついてきた。
彼女の柔らかい胸が、僕の背中に押しあてられるのを感じた。

