2010年10月24日

脈絡のない情報に流されないほど強い欲望

 
 僕は、エリザベスの裸の胸を見つめていた。
「東京の町って、実体がないわね」
 エリザベスは白い肌をしている。声は艶っぽくて、頬が少し紅潮している。
「いろいろな情報に溢れているけど、脈絡がなさすぎるわ」
 確かにエリザベスの言うとおりだと思った。TVをつければお笑いから料理番組、スポーツ、ニュースまでなんでもある。ネットを開けば友人のブログやらSNSやらツイッターやら、いろいろある。でもそれらになんの繋がりもない。
「だから?」と、僕は全裸のエリザベスに訊いてみた。「それがどうしたの?」
「だから? あなたはただ情報に翻弄されているだけ・・」
 そうかもしれない。たった今だって、こうしてエリザベスの裸の胸を見つめている。そして、こんなことを考えていた。「彼女の身体は美しい。胸だって、なんて綺麗な形をしているんだろう。でも、僕は彼女のその胸に、何の意味も読みとれない。なぜなのだろう。僕は現実の実体から意味を読みとることができなくなってしまったようだ。それよりも、実体のない情報を欲しがっている。それは例えば、エリザベスの秘めたる欲望というコード。それが読みとれなければ、僕はエリザベスの身体に触れることはできない。いや、それを読みとれなければ、彼女に触れたとしても無意味だ。
「エリザベス。きみは綺麗だ。きみのその裸の身体は奇跡のように美しい。でも、きみは僕にとって、この東京という町ほどにも実体がない。ただの情報の集積に過ぎないんだ。それもなんの脈絡もない情報の集積。あなたのブルーに輝く瞳。金色のネックレスを連ねたような髪。そして釣鐘のような胸。軟らかい果物のような唇。それら全ては脈絡もなく、今、僕の目の前にある。でも、目には見えないあなたの欲望。それさえあれば、全てが繋がる。でも、あなたは僕を欲しているのかどうか、僕には分からない。あなたの中に”欲望”という実体がない限り、あなたの美しい部品の全ては、僕にとってはバラバラの存在であって、この東京という町に暮らしているみたいに無意味なんだ」
 エリザベスは僕がそう言うのを聞くと、がっかりしたような顔をして急に立ち上がった。そして、おもむろに、僕の後ろに回った。
「これであたしが見えなくなった。そうでしょ? あたしという実体は不在になったの。さあ、これから、あなたにとって必要なあたしの”情報”を選び出してみて」
 ぼくは戸惑った。
「どうやって?」
「あなたは私の欲望に火を点けられるかどうか、試してみるの」
「どうやって?」
「やり方は簡単。見えないあたしに言葉を使って言うの。あたしのどこが必要かを。そして、それがなぜ必要なのかを言うの」
「え? 言葉できみのどこが、なぜ必要なのかを言うの?」
「そうよ。簡単でしょ?」
「よくわからないよ。でもやってみるよ」
 
 僕はベッドの上に胡坐をかいて座り、エリザベスの言ったルールにしたがって、ゲームを始めてみることにした。
「エリザベス。きみは背が高い。ぼくはその背の高いきみの裸の姿を想像している。真っ直ぐに立って僕の目の前にいる。まるで彫刻のように美しい。いや、彫刻以上だ。なぜならきみの髪は金髪で瞳はブルー。唇は赤い。そして、肌の色はピンクがかった白。彫刻のように単色ではなく、きれいな色で色づいているから、きみは彫刻以上に美しい。そして、その立体的造形だって彫刻では表現できない。なぜなら、きみは動く。波のようにうねり、豊かな胸をふるわせ、表情も刻々と変化する。なぜなら、きみはただの物質ではなく、きみには感覚があり、感情があるからだ。そして、その感情は、肉体の快楽の感覚を超えて、僕を欲する。それがあなたの意志だ。僕を欲しなければ、あなたの身体はバラバラで、エクスタシーに到達することはできない。だから、きみは決心しなければならない。欲望それ自体に、自分の身体をドライブさせることを許さなければならない」
 
「いいわ。OK。合格にしておいてあげる。あなたはこの東京にいて、情報に振り回されないで、自分の”欲望”によって行動するの。そうしたら、あたしも、あなたを欲してあげるわ」
 エリザベスは僕の後ろから、僕の背中に抱きついてきた。
 彼女の柔らかい胸が、僕の背中に押しあてられるのを感じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
posted by hoshius at 22:20| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年10月10日

ぼくは上着のようにぼくを着る。そして脱ぎ捨てる。

 
 
 ぼくは、朝目覚めた瞬間、上着を着るようにぼくを着る。
  
 ぼくは、ぼくを着ていないぼくを知らない。なぜなら、ぼくは、ぼくを脱いだ瞬間、気を失ってしまうからだ。

「神に愛されているのは、どっちのぼく?」
 
 ぼくを着ているぼくが本当のぼくだが、着られているぼくがぼくだとぼくは思っていた。でも、そのぼくは、本当のぼくのほんの数%でしかない。だからぼくは眠っていた。死んでいた。そして今、夜、起きている。
 
 それを知ったのは、アン、アニー、エリザベスの三人が、ぼくの中に入り込んで来てからだ。あの日、上着であるぼくは死んだ。そして、そのとき、ぼくはどんな上着を着ていたのか初めて知ったのだ。
 
「下着も脱いでみたら?」
 
 エリザベスが言う。
 
「いや、ぼくが”上着”と言ったのはひとつの比喩だよ。ぼくは上着を着るようにぼくを着ていたのだと言ったのだ。上着を脱いで、その上、下着までも脱ぐとなったらちょっと複雑すぎて、訳が分からなくなるよ」
 
 エリザベスはぼくの反論などお構いなしに、「じゃあ、これは何?」と言って、ぼくの履いているパンツを引っ張った。
 
「これは、その・・、下着だよね」
 
「そう。上着を奪おうとするものには下着をも与えよ。逆に、下着を奪おうとする者には上着をも与えよと聖書に書いてあるでしょ?」
 
「だから?」
 
「だから、あなたは上着も脱いだのだから、下着も脱いだ方がいいわ」
 
「え? そうするとどうなるの?」
 
「上着を脱いだらあなたは死んだ。だから、今度は甦るかもね」
 
「どうやって?」
 
「やってみたら?」
 
 上着を脱いだら、気を失っていた自分が自分であることに気付いた。そして今、ぼくの中に入っているエリザベスがぼくの下着を見ているのをぼくは見ている。
 ぼくが下着を脱ぐと、ぼくのペニスをエリザベスの目が見ているのをぼくが見ている。
 
「それが、あなた?」
 
「そう。これがぼくだよ」
 
「いいわ。あなたは、朝目覚めた時、上着を着た。そして、夜になって下着を脱ぐの。あなたは上着でも下着でもない。やっとわたしにもあなたが見えたわ。あなたの本当の姿が」
 
 ぼくの中にいるエリザベスが裸になっているのを感じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
posted by hoshius at 00:16| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月25日

明日また日が昇るまでに

 
 
 
「今日は、夜を感じることにしよう」
 
 外では小雨が降っていて、部屋の中は寒い。
 だれかがいるような気がするが、気のせいで、だれもいない。
 明日は休みだからゆっくり寝ていられる。
 だから今日は好きなだけ夜を感じていられる。
 明日また日が昇るまでに、できること。それを考えている。

「瞑想」
 誰かが言ったような気がする。
 でも瞑想っていったいどうやってやるの?
 
「簡単。なにもしないこと」
 
「じゃあいったい何分やればいいの?」
 
「20分」
 
「わかった。じゃあ初めてみるよ」
 
 目を瞑った。
 眠くなってきた。
 
「眠ったらだめ」
 誰かが言ったような気がした。
 
「どうすればいい?」
 
「簡単。目で目を見ればいい」
 
「目で目を見る?」
 
「そう。自分で自分自身を見る、と言い換えてもいい」
 
「自分で自分自身を?」
 
「そう。そのとき自分はどこにいる?
 そのとき、目は何を見ている?」
 
「自分自身を自分が見ている自分。目が目を見ている目」
 
「ちがう」
 
「じゃあ何?」
 
「簡単。自分を超えた外。目を超えた頭」
 
「それが? どうしたの?」
 
「それがどうしたか。簡単。あなたが夢見ていたこと、それを見ればいい。知ればいい」
 
「ぼくは詩と音楽と絵画、つまり芸術のすべてを統合したい」
 
「芸術の統合?」

「そう。芸術の統合」

「どうやって?」

「それは分からない。でも、すべてを一つのテクノロジーに統合するのではない、ことだけは分かる。
 芸術の価値が分かる人のための芸術」
 
「それは職人の技術じゃない」
 
「そう。職人技じゃない」
 
「テクニックでもない」
 
「そう。テクニックを磨くことでもない」
 
「競い合うことでもない」
 
「そう。コンテストでもない」
 
「シンプルでありのまま」
 
「奇抜ではないが、だれも表現したことがないもの」
 
「奇抜ではない。でも、だれも見たことがない、読んだこともない、聞いたこともないもの」
 
「それはすでにある」
 
「すでにある?」
 
「そう。ここに」
 
「どこに」
 
 見ると一つの小さい種があったので、それを吞み込んだ。
 
「それでいい」
 
「どうして?」
 
「そうやって種を呑んだ者は、やがて酔っぱらう」
 
「酔っぱらう?」
 
「そう。簡単」
 
「何が?」
 
「自分が酔わないもので人を酔わせることはできない」
 
「確かにそうだ」
 
 ぼくは今日は、雨の音に酔うことにしようと思った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


posted by hoshius at 03:33| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする